2006-11-18
星野博美「転がる香港に苔は生えない」
読了。長かった...。フォトグラファでありライタである作者が、1997年の香港返還を中心に2年間を香港で過ごした記録。と言っても、香港返還を追いかけたルポルタージュというよりは作者が香港の下町に住んで経験する様々な人々との出会いを通して香港への想いを綴った私小説、といった感が強いかな。
自分は香港へは直接は行ったことがないので、作者の描き出す香港はエネルギッシュでビビッドでシビアで、そこに生きる人の息遣いが強く感じられとても興味深かったです。一方でなかなか読み進まなかったのには著者のリリカルに過ぎる感じ方、文章が幾分キツかったのもありますね。
最も引っかかったのは、作者が日本を肯定的に捉えられず、最後を「たまらなくあの雑踏の中に戻りたくなる」と締めている一方で、香港での生活を「仮の生活」と自らに言わせてしまい、「自分たちが香港的なるものを次々と破壊し、観光資源を絶滅させていることを、香港はそろそろ認識していい頃だと思う。」と言って、「香港を愛するが故に、私はいつか絶対にこの街を離れなければならなかった。」と言ってしまう、おそらく作者自身が最後まで整理しきれなかった矛盾した感情でしょうか。このまとまらない感情を含めて作者の香港での2年間をあらわしているのだろうけれども、読者としては読み終わったあとどうにも居心地の悪い想いが残ります。
最後の章で香港と照らし合わせて日本の閉塞した現状を語っているけれども、それを書くのならばこの本の中ではなく、作者が日本で日本の人々と生活を切り取ることで描き出すべきことじゃないだろうか。
「生きている人間が見えにくい社会は、それだけで不幸である。」という言葉を日本に向けて投げかけているのだとすればそれは必ずしも当てはまらないと感じるのだけれど。
この本の中では表紙と中カラーを合わせて8枚の写真を見ることができるけれども、読み終わった後でもっと見てみたいなと思いました。これだけの膨大な文章を読んだ後で、そのとき、その瞬間に作者が何を切り取ってきたのか興味があります。
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