2004-08-11

東野圭吾「片想い」

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片想い (文春文庫)
東野 圭吾
文藝春秋 2004-08-04

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大学時代のアメフト部のマネージャが告白したのは殺人と意外な事実だった。

性同一性障害を始め、半陰陽、オカマ、オナベ、女性、男性、登場する人々の「性」に対する様々な捉え方が読み手の「女性」と「男性」という性別による固定観念を曖昧にさせていって、タイトルでもある「片想い」を意外な形で浮かび上がらせていく。
随所に張り巡らされている伏線はミステリとしても1級だと思いますが、輝いていた大学時代から13年という時間を過ごしてなお、お互いをポジションで呼び合うような(そして、そのポジションごとに人生の中で役割を与えられたかのような)元アメフト部のメンバたちの姿が印象的でした。

それだけに断崖オチはないだろうーって感じでしたが。

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2004-07-17

森博嗣「恋恋蓮歩の演習-A Sea of Deceits」

Vシリーズ長編6作目。コンスタントに文庫に落ちてくるので楽しみにしている作者のシリーズ。
描かれる人間関係や事件、いつもの登場人物すらが、最後の5ページに収束するための舞台装置に過ぎないのは驚かされる。作者がこのシリーズで、ミステリを飛び越えてシンプルな物語を自由に描いているのが好きです。いわゆる「本格ミステリ」を期待するとちょっと違うかな。僕は気持ちよく騙されました。

シリーズ通してのいつもの登場人物たちの説明がほとんどないので、シリーズの1作として楽しむモノでしょう、きっと。

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2004-07-03

重松清「エイジ」

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エイジ (新潮文庫)
重松 清
新潮社 2004-06

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東京郊外のニュータウンに暮らす中学2年生の主人公 エイジ。街で起こっていた連続通り魔事件の犯人は同級生だった。家族のこと、友だちのこと、好きな女の子のこと、そしてキレた同級生のことをエイジは考える。

一気に読んでしまった。
読み終わったあとで感じた居心地の悪さは何だろう?本書巻末の解説では実際の中学校の校長が「この物語をコドモがオトナにメタモルフォーゼするプロセスを描いた傑作だと考えている」と書いている。オトナって何だ?

中学生じゃない作者が中学生の視点で描いた中学生らしい物語。でもやっぱりどこかで「こうであって欲しい中学生」みたいなものが見え隠れしてる気がして、それでどうにも背中の辺りがむず痒いんだ。
なんだか苛立つのは巻末の解説者の言葉よりも劇中のエイジたちの言葉の方が僕にとって身近に聞こえることだろうか。オトナって何だ?

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2004-07-01

恩田陸「ネバーランド」

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ネバーランド (集英社文庫)
恩田 陸
集英社 2003-05

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恩田陸の小説を読むのは「六番目の小夜子」に続いて2作目。
伝統ある男子校の寮「松籟館」。様々な理由から帰省せずにそこで冬休みを過ごすことになった4人の少年による1週間の物語。

ちょっと大人びていて個性的な少年たち。今までの学校生活の中でお互いに微妙な距離をとっていた4人が、他に誰もいない寮の中でそれぞれの悩みを語りあって、助け合い現実に立ち向かって心を通わせていく。描写がとても瑞々しくって読後に不思議な気持ちになれる小説でした。ノスタルジックなんだけどそれだけじゃない。高校生である彼らの言葉は1つ1つが真っ直ぐすぎて眩しすぎるな。

彼らが過ごした「松籟館」での1週間は、大人になった僕らにとって、なんだかギスギスしちゃってる世の中にとっての「ネバーランド」。気持ちの良いファンタジー小説。

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2004-06-17

垣根涼介「ヒートアイランド」

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ヒートアイランド (文春文庫)
垣根 涼介
文藝春秋 2004-06

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特にチェックしている作家でもなかったけれど、書店で表紙の写真が面白かったのと、解説が大沢在昌だったので買ってみた。
正直、序盤は『池袋ウエストゲートパーク』のフォロアかなとも思いましたがどうして、スピード感のあるストーリで一気に読みました。

19歳の「アキ」は渋谷でファイトパーティーを開いてストリートギャング「雅」のヘッドにのし上がった武闘派だけど頭もキレるヤツ。一緒にコンビを組んでいるのはチームの頭脳である同じく19歳の「カオル」。
厄介なトラブルに巻き込まれた2人は、19歳ならではの社会への不信とか家庭の悩みを持ちながらも、ヤクザやプロの強盗グループを相手に生き残りを賭けた勝負を仕掛けていく。

「アキ」はキレはいいし、妙にスレていないところが魅力的なキャラクタだ。
終盤の展開は強引なところもあるけど、息をつかせないアクションと騙しあいで盛り上げていきます。

このへんでアウトローっていうと新宿に『不夜城』の「劉健一」、池袋に『池袋ウエストゲートパーク』の「マコト」を思い出す。この作品は不夜城ほどドロドロしてないし、池袋ウエストゲートパークほど今の空気を感じる訳でもない。言うなればマッチョ。
この作品、女の子は全くと言っていいほど出てこないんですよ。描かれる内容もストリートファイト、クルマ、ヤクザ、銃撃戦と、もうこれでもかと言うほど男臭い。そんな話を渋谷でやったのが面白いと思う。
この作品の「アキ」がこれからの渋谷を駆け回るとするなら面白いシリーズになりそうだが。

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2004-06-14

大沢在昌「灰夜-新宿鮫VII」

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灰 夜 (光文社文庫)
大沢 在昌
光文社 2004-06-11

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新宿鮫シリーズの文庫新刊が発売されましたよー。
大沢在昌は言わずと知れたベストセラ作家で、現在コンスタントにハードボイルドな作品を書いてくれる数少ない作家の1人です。代表的なシリーズに「新宿鮫シリーズ」「佐久間公シリーズ」「アルバイト探偵シリーズ」など。
この作品も新書ではとっくに出ていましたが読んでないので私的には新刊です。文庫が大好きなんですよ。家にある小説も全部文庫。
執筆された順番としては「風化水脈-新宿鮫8」の方が先のようですが、この作品の方が作中の時間が前なのでナンバも7と打たれ、先に文庫化されたようです。

シリーズ初の新宿が舞台でない新宿鮫。
直接的な暴力の描写は少ないものの"新宿署の鮫島"という肩書きがない、今までの仲間も恋人も出てこないので誰も信じられない という点で緊張感のある展開ですね。
街を描いたハードボイルドと呼ばれたこのシリーズも鮫島を中心とした警察小説へと移行しているのかな。鮫島が夜の街を聞き込み歩くシーンなんかは、最近の「佐久間公」シリーズと被ります。

公安警察時代、鮫島が現在の特異な立場に置かれる契機になる話を冒頭に持ってきている。
そのため警察機構の中での鮫島の戦いが描かれるのかと思ったがそちらは語られずむしろ新宿と切り離されたこともあり、「警官」としてではない「個人」としての鮫島の戦いが描かれるまっさらなアクション小説になっていたな という感想。

今までの人間関係をほとんど考えずに読む事ができるので、鮫島のタフな魅力がより全面に出ていると思う。

終盤、外国の破壊工作員まで出てきてスケールが大きくなりすぎるも、最後は鮫島の手の届く範囲で物語をおさめてくれるのは嬉しい。著者のシリーズは最後には世界規模の秘密情報部員だとかが必ず出てきてしまうので、新宿鮫くらいは市井のヒーローでいて欲しい。

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