2007-01-21

森博嗣「四季 秋」、「四季 冬」

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四季 秋 (講談社文庫)
森 博嗣
講談社 2006-12-15

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四季 冬 (講談社文庫)
森 博嗣
講談社 2006-12-15

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読了。昨年の年末に読み終わってました。
秋の方はS&MシリーズとVシリーズ、2つのシリーズに渡って仕掛けられた最大の謎が明かされる解決編。シリーズ通しての読者にとっては最後に受けるカタルシスは計り知れないかと。素晴らしい。何を書いてもネタばれになる気がするので内容については言及しにくいですが。
冬の方は、再び時間を超越して真賀田四季博士の内側の世界へと。非常に観念的ではあるけど、実に「四季」シリーズらしい語りだった。しかし、これはもはやSFですね...。個人的には四季の語りは理解はできないけど十分に楽しめました。
四季とそれを取り巻く謎についてはとりあえずこの4冊で答えが出たはずなので、作者の次シリーズがどこへ進んでいくのか楽しみな反面、心配でもありますね。この「四季」シリーズも他の作品を読んだという前提の上に成り立っている気がするし。もはやミステリとして書かれてはいない「森文学」はどんどんと敷居が高くなっているような気がします。ファンは良いけど一見のお客さんは入ってこれないような...。もういちど初期の頃のような物語と謎でぐいぐいと引っ張っていくミステリも読んでみたいところです。

内容とは関係ないんですが、「四季」シリーズの文庫は表紙デザインがとても美しくて良かったですね。4冊並べたときになんとも言えない満足感があります。書店で平台に4冊並んでいるのを見るとなんだか嬉しくなったり(笑)
あと、これも内容とは関係ない話ですが、巻末に読者の感想を載せるのはとても見苦しい感じがするので以後は止めて欲しいですねぇ。狙いが全くわからないです。

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2006-12-19

森博嗣「四季 夏」

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四季 夏 (講談社文庫)
森 博嗣
講談社 2006-11-16

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読了。「春」よりも、よりシリーズの関係性を強調する内容になっている。と言うか、むしろそちらがメインか。もはやミステリではないな。別に良いけど。
「春」の頃に比べて四季も人間的な「澱み」のようなものを見せていてキャラクタとしては理解できる範囲にいるし、ストーリーの時間軸も一定なので比較的素直に読めますね。シリーズのファンなら事件の核心については周知な訳だし。シリーズの登場人物総登場で豪華なのは楽しいけれど、この一作だけだと一寸物足りない気がする内容。
まぁ文庫で「秋」「冬」も出たのでとりあえず読み進めてみようか。

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2006-12-14

森博嗣「四季 春」

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四季 春 (講談社文庫)
森 博嗣
講談社 2006-11-16

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読了。作者のS&MシリーズとVシリーズを繋ぐ人物である真賀田四季博士の幼少時代を描いた4部作の1作目。いたるところに作者らしい罠がしかけられていて疑い始めるとキリがない。なにせ、まずは「どの登場人物が実際に存在するのか」から考えないといけないからなぁ。「天才」として描かれる四季の思考は少女時代にも関わらず全くもって初登場時と変わらないので、凡人には理解し難いところなのだけれども、その分時折みせるリリカルな部分により刺激されるな。
これ1冊でも完結しているけれど、他シリーズの関連性を考えるとより面白いです。いろいろ邪推してみたりして。結構忘れている部分もあるので必死に思い出したりしながらですけど。
現在は「夏」を読書中。とりあえず4冊読み終わったら「すべてがFになる」と「有限と微小のパン」は再読してみるかな。

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2006-11-29

大沢在昌「帰ってきたアルバイト探偵」

読了。アルバイト探偵シリーズ、12年ぶりの新作。相変わらず高校生のリュウくんと元行商人のオヤジが国家的インボーに巻き込まれる話。

新作でも登場人物は変わってないし、昔のノリは健在。深く考えるのがバカバカしくなるくらいに軽いし、リュウくんと親父の軽快な掛け合いもそのままで、頭からっぽにして楽しく読めますね。
1990年前後の設定をそのまま現代に持ってきているけど、全く違和感なくとけ込んでます。そういえば昔のシリーズが出てた頃は携帯とか使ってなかったんだよね。そう考えると12年ってイロイロ変わったんだなぁ。

作者の街角シリーズの主人公 佐久間公や新宿鮫シリーズの鮫島は相応に年を取って重くなってしまったけど、アルバイト探偵シリーズはこのままのノリで行って欲しいですね。

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2006-11-25

あさのあつこ「NO.6♯1」

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NO.6♯1 (講談社文庫)
あさの あつこ
講談社 2006-10-14

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読了。前のが重かったので軽そうなのをと選んだら続きものだった罠。
近未来、高度に管理され、厳格な階級社会として存在する街「No.6」でエリートとして育てられた主人公 紫苑は、全く異なった階層の少年 ネズミとの出会いによって世界の真実を知っていく...。設定としては割と定番かな。
少年2人の関係が中心でSF的部分は食い足りないところもありますが、世界に対して純粋な主人公と斜に構えたネズミの掛け合いが軽妙で爽やかに読めます。この巻は起承転結で言えば、まさに「起」といった感じ。先が気になるな。
よく似た内容のマンガを昔読んだような記憶があるんだけど、なんだったけなぁ。

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2006-11-18

星野博美「転がる香港に苔は生えない」

読了。長かった...。フォトグラファでありライタである作者が、1997年の香港返還を中心に2年間を香港で過ごした記録。と言っても、香港返還を追いかけたルポルタージュというよりは作者が香港の下町に住んで経験する様々な人々との出会いを通して香港への想いを綴った私小説、といった感が強いかな。
自分は香港へは直接は行ったことがないので、作者の描き出す香港はエネルギッシュでビビッドでシビアで、そこに生きる人の息遣いが強く感じられとても興味深かったです。一方でなかなか読み進まなかったのには著者のリリカルに過ぎる感じ方、文章が幾分キツかったのもありますね。

最も引っかかったのは、作者が日本を肯定的に捉えられず、最後を「たまらなくあの雑踏の中に戻りたくなる」と締めている一方で、香港での生活を「仮の生活」と自らに言わせてしまい、「自分たちが香港的なるものを次々と破壊し、観光資源を絶滅させていることを、香港はそろそろ認識していい頃だと思う。」と言って、「香港を愛するが故に、私はいつか絶対にこの街を離れなければならなかった。」と言ってしまう、おそらく作者自身が最後まで整理しきれなかった矛盾した感情でしょうか。このまとまらない感情を含めて作者の香港での2年間をあらわしているのだろうけれども、読者としては読み終わったあとどうにも居心地の悪い想いが残ります。

最後の章で香港と照らし合わせて日本の閉塞した現状を語っているけれども、それを書くのならばこの本の中ではなく、作者が日本で日本の人々と生活を切り取ることで描き出すべきことじゃないだろうか。
「生きている人間が見えにくい社会は、それだけで不幸である。」という言葉を日本に向けて投げかけているのだとすればそれは必ずしも当てはまらないと感じるのだけれど。

この本の中では表紙と中カラーを合わせて8枚の写真を見ることができるけれども、読み終わった後でもっと見てみたいなと思いました。これだけの膨大な文章を読んだ後で、そのとき、その瞬間に作者が何を切り取ってきたのか興味があります。

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2006-11-08

恩田陸「夜のピクニック」

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夜のピクニック (新潮文庫)
恩田 陸
新潮社 2006-09

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読了。最近映画化されたけれど未見。高校生活最後のイベントとして全校生徒が夜を徹して80kmを歩くという「歩行祭」を舞台に、登場人物たちが少しだけ引っかかった人間関係や上手く伝わらない想いみたいなものを語りながら、ただひたすらにゴールを目指して淡々と歩き続けていく。
大人になって振り返ってみればほんの些細なことだったと思うような出来事が、その時はまるで世界の終わりが明日来るくらいの重大なことのように感じられた頃。そんな昔を懐かしく思い出すことが出来ました。
物語を通してドラマらしいドラマは起こらないんだけれども、この作者は何もないところに物語を作るのが上手いなぁ。読後感も清々しくよくできた小品。これを映画化したってところには疑問符。あまり映画に向いている題材じゃないと思うのだけれども。

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2006-09-25

石田衣良「アキハバラ@DEEP」

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アキハバラ@DEEP (文春文庫)
石田 衣良
文藝春秋 2006-09

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読了。それぞれに傷を抱えて社会に溶け込めないけど得意分野にはめっぽう強いというオタクたちが秋葉原に集い、ITビジネスの世界で成功を目指す。苦労の末に完成させた「それ」をITの帝王と呼ばれる男に奪われたとき、かれは自分たちの誇りをかけて敢然と立ち向かって行く。という、ジャンルでいけばスペシャリストものになるかな。
前半のメンバ全員が一つのきっかけからそれぞれの傷を認めてまとまり、目標に向かっていくところまではかなり面白く読めたけど、後半のだんだんと現実から飛躍していく内容には疑問符が。
ラストのはげしいアクションシーンにしても痛みや血や汗の臭いはあまり感じず、なんだかRPGのダンジョンをラスボスに向かってズンズンと進んでいくような軽さも感情移入を阻害している。また、秋葉原の描かれ方が生命力の感じられない、とてもプラスチッキーなものなのに少々の違和感を覚えた。特定のポイントやキャラクタは魅力的に描かれているものの、秋葉原という街そのものは生き生きと感じないんだよね。これが作者の感じた秋葉原という街の温度なんだろうか。

昨今の秋葉原を中心としたムーブメントを上手く自分のフィールドで軽く料理したファンタジーって感じです。踏み込めばもっと深くも書けるエピソードがいくらでもあるだろうけど、あくまで勧善懲悪なファンタジーに徹したところが残念。これは秋葉原に行かないような人が読んだほうが面白く読めたかな。

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2006-07-17

関口尚「プリズムの夏」

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プリズムの夏 (集英社文庫)
関口 尚
集英社 2005-07-20

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高三の主人公は、親友とともによく通う映画館で働く年上の女性「松下さん」に恋心を抱く。やがて彼女と言葉を交わすうちに、偶然ネットで見つけたうつ病の女性が彼女と同一人物ではないかと疑いだすが...。
年上の女性への憧れ、家庭に問題を抱える親友との距離感、将来への不安、青春だなぁ。学校生活をほとんど描かずに親友と松下さんの3人だけで物語を語っているのが目新しいかな。
全体通して歯切れの悪い印象ではあるものの、これは主人公側よりもヒロインの側に問題がある気がする。「鬱」になる過程が彼女のweb日記を通して断片的にしか描かれていないので、読み方によっては年上の不思議少女にしか見えないし。「鬱」というものを主題として見ると一寸薄いかも。
表紙にも描かれている冒頭のシーン、高校生、夏、自転車、海沿いの通りみたいなシチュエーションはお約束ながら大好きだ。高校時代を思い出す装置としては良作だと思う。

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2006-07-12

森博嗣「赤緑黒白―Red Green Black and White」

読了。Vシリーズもこれで完結。ペインタによる殺人の具体的な部分は作者の作品としては至極真っ当過ぎる話で、この辺は意図的に視点をここにある物語の外側へ向けるためのものだろう。やはりこの作品の中での最大のミステリはS&MシリーズとVシリーズ、そしてその後のシリーズがリンクしている部分にあると思う。
今までにもいくつか散りばめられてきた伏線は見えたんだけど、このVシリーズ最終作の最後の最後でそれらが結実し、1作目から読み続けている読者にとって驚きと喜びに震える場面を目撃することになるに至って、改めてこの仕掛けは最後まで読み届けてやろうと思ったな。まだ全てが理解できている訳ではないけど。次のシリーズがまた楽しみになってきた。

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