2006-02-16

山本文緒「ブルーもしくはブルー」

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ブルーもしくはブルー (角川文庫)
山本 文緒
角川書店 1996-05

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読了。入れ替わりものを続けてもう1冊。
主人公の佐々木蒼子は結婚6年目になる夫と愛の無い結婚生活を送っており、目下年下の不倫相手とも別れ話をしている。そんなとき、以前に求婚され悩んだ末に別れた男、河見と結婚したもう1人の自分と出会う。2人は1ヶ月の間、お互いの生活を交換してみることにするが...。
誰しもが1度は考えたかもしれない、「違う選択をした自分」というのが目の前に突きつけれらたら人はどう感じるかというのをとても直接的に物語にしていて面白い。どうせお互いの選択の正しさを再確認して元の生活に戻るのだろうという安易な予想は軽く裏切ってくれるし。

男にどこか拠って立とうしながら打算的な蒼子や、結婚前から浮気している夫、酔って暴力を振るう河見、やたらと甘えた甲斐性なしの不倫相手など身勝手な男どもと登場人物たちが美しくない部分を多分に見せてくれているので、夢見がちなところがほとんど無く、恋愛に対してかなり醒めた小説だなぁ。
こういった視点は女性の作家に多いような気がするんだけれどもどうしてなんだろうな。

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2006-02-13

東野圭吾「秘密」

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秘密 (文春文庫)
東野 圭吾
文藝春秋 2001-05

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読了。広末涼子さんが出演して映画にもなったベストセラー。映画は未見。
妻と娘の乗ったバスが事故で崖下へ転落。妻を失い、奇跡的に生き残った小学生の娘が意識を取り戻したとき、その心は亡くなったはずの妻のものだった...という序盤の展開は割とオーソドックスな入れ替わりものだなと油断していたのが、読み終わったときには放心状態。何も手につかないというのはこういう事を言うのか。
最後まで読んでページを捲り直しそれぞれのシーンを読み直すと、そのとき直子はどういう気持ちで日々を過ごしていたのかを最初とは全く違った形で考えてしまい、また胸を締め付けられるような苦しさに囚われる。最後に明かされる「秘密」を知ることは重たくてあまりにも残酷だ...。
自分はどうしても平介の側に自らを投影して読んでしまったけど、これだけの「秘密」を抱えて平介はどうやってこの先を過ごしていくのだろうか。自分だったらはたして狂わずに生きていけるだろうか。
ただ1冊の小説にこめられたメッセージに叫び出したくなるくらい混乱してる。

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2006-02-04

森博嗣「朽ちる散る落ちる -Rot off and Drop away」

読了。Vシリーズ9作目。同シリーズの『六人の超音波科学者』の続編とも言える内容。
相変わらず密室のトリックは考えるのもイヤになるようなぶっ飛んだもので、作者の提示した謎をなんとか解いてやろうってなミステリ読みには全く薦められない。シリーズのファンとしては、いつもの登場人物以外の人間関係が比較的シンプルで読みやすく読後感も非常に良い作品。特に紅子の魅力が今まで以上に出ていて楽しい。

まぁなんと言うか僕にとって森博嗣さんの小説、とりわけVシリーズは、話の粗筋や密室のトリックが重要なのではなく、独特なリズムの文章と登場人物の口を借りて発せられる斬新な発想が楽しみな訳ではありますが。

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2006-01-25

東直己「ススキノ、ハーフボイルド」

読了。表紙とタイトルで衝動買い。
主人公は頭が良くて口も立つが、荒事に自信がある訳じゃ無い。ススキノの飲み屋に入り浸って、水商売で働く10歳上の恋人がいる高校生。設定はかなり魅力的。東京を舞台にした小説は数あるけど、北の歓楽街ススキノを舞台にしているのは面白いし、行ってみたいとも思った。
何事につけても斜に構えた(構えようとしている)主人公の言動が一々シャクにさわりつつもどこか共感するような所もあるな。
終始、物語の裏で動いている「事件」には全く触れることができないでいることが、主人公にとっての大人として扱われているようで扱われていないもどかしさ、無力感としてイヤってほど感じられる。
しかし、最後に語られるだけの事の顛末にしても、彼女の告白にしても、なんだか話をどこに持っていきたいんだか全然分からなくて、読み終わっても釈然としないことばかりだー。

で、この作品イロイロ検索してみると、他に別の登場人物の視点で2冊ほど出ているらしい。登場物人も作者のシリーズでは馴染みの顔が多いみたいだし...。
うーん、他の作品を読んでからでないと本当の意味での面白さは分からないのかもなぁ。。

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2006-01-17

石田衣良「ルージュ・ノワール 赤・黒 池袋ウエストゲートパーク外伝」

読了。軽かったので一気に読んじゃった。
映像ディレクタの主人公は、カジノで知り合った男から、カジノの売上金の狂言強盗の計画に誘われる。計画は成功したかに見えたものの、仲間の裏切りによって金は全て持ち去られ、店の元締めのヤクザにも見つかってしまう。1ヶ月で金を取り戻せば自由の身、できなければ絶望的な未来が待つのみ。
シリーズ同様のリズミカルな文章で、主人公はしょっぱなから悲惨な状況なんだけど意外と悲壮感は無い。同じ池袋を舞台にしているとは言え、マコトよりも年を喰った主人公は何処か醒めていて、足取りも重く熱のない展開。それが一転するのは中盤、物語がカジノを舞台にしてから。急速に物語が加速し始めてからは、最後までノンストップで夢中に読んでしまった。馳星周さんあたりが書けばどこまでも重く書いてしまいそうな内容を、これだけ軽く書いてしまうのが面白いと言うか、実に作者らしいなぁ。

池袋ウエストゲートパークの外伝ということで、サルやタカシといった見知った面々が登場する。特にサルは主人公のパートナーで準主人公のような扱い。本編に登場したときからいいキャラクタだなと思っていたけど、やはりマコトとは違った意味で魅力的だな。結局本編の主人公マコトは名前だけで出てこないけど。

ご都合主義的で先の読めてしまう展開ではあるけれど、サラっと読むにはこの位が丁度いい。エンターテイメントだ。

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2006-01-16

村上春樹「スプートニクの恋人」

読了。ひさびさに読んだ村上春樹さんの本。
物語には主人公である「ぼく」と、ぼくが恋をしている作家志望の風変わりな女性「すみれ」と、すみれが恋をした女性実業家の「ミュウ」の3者しか登場しない。
ラブストーリィのようであり、ヨーロッパを舞台にしたミステリのようであり、ファンタジィのようでもある。ただ、正直ストーリィよりも、シーン毎に生き生きと描き出される多彩な「言葉」が記憶に残る。

物語の中で一貫して描かれていくのは、作者が作中でスプートニクに例えた人の孤独。人がめぐり合って、すれ違い、そして離れていくどうしようもない寂しさ。それでも日常は廻っていく現実。
多くの人が心のどこかに持っている寂寥感みたいなものが、静かに感じらるのは流石に上手いなぁ。
雰囲気がなんとなく演劇的に感じる。

細かく日常を描いている割にはどこか現実感に乏しい世界で繰り広げられる物語が、終盤グっと現実に引き戻されるのは意外だった。最後のシーンは再び現実と幻想の狭間へ行ってしまって余分かなとも思ったけど、お陰で後味悪くなく読めたので作者の心遣いと思っておこうかな。
なんて言うか、読みながら物語にのめり込むよりも自然と内省していくような小説だった。優しくてとても寂しい不思議な感じ。

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2006-01-09

石田衣良「4TEEN」

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4TEEN (新潮文庫)
石田 衣良
新潮社 2005-11-26

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読了。新年、文庫1冊目。東京 月島に住む「14歳」の少年4人組を主人公にした連作集。だから4TEENか。
恋愛とか人の生死とかセックスとか友情とかDVとか家族の問題とか将来への不安とか、今っぽいものから普遍的なものまでいろいろなと詰め込んであるけど、石田さんらしいリズミカルな文章はそれを湿っぽくしないで読ませてくれる。固有名詞が多く使われているのもライブ感を出すのに一役かっているかな。
世の中は必ずしも平等ではないことを知っていて、自分の置かれたポジションを良く理解しているけど、基本的には友達想いで、正しいことは正しいと、間違ってることは間違ってると言いたい。そんな登場人物たちは、14歳を遥か昔に過ぎてきた自分にとって大人びすぎてると感じるのだけど、いま14歳の時を送っている人はこれを読むとどう思うのだろうか。
大人になって読む青春小説としては「こんな友達たちと青春時代に一緒に自転車旅行に行きたかった」って純粋に思わせてくれる1冊だった。

そういえば、自分が小学生くらいの頃に読んでいた「ずっこけ三人組」シリーズに4人のうち3人の造形がよく似ているなぁ。「ウェルナー症候群」の少年がいることで全然違う空気になっているけど。

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2005-12-26

宮部みゆき「模倣犯」4・5

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模倣犯〈4〉 (新潮文庫)
宮部 みゆき
新潮社 2005-12

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模倣犯〈5〉 (新潮文庫)
宮部 みゆき
新潮社 2005-12

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読了。眠くなるまでと読み始めたら、最後まで読んじゃうというベタなことやってしまった。
5冊読み終わった直後に冗長だとは感じさせず、むしろもっと読みたいと思ったくらい引き込まれる。
1部で被害者の家族の、2部で犯人側の、それぞれの内情を描き、この3部でやっと両者はようやく同じ舞台に上がる。しかし、読者はことの成り行きをただ見守るのみしかできない。

警察は淡々とそして確実に「仕事」をこなしていくし、事件の綻んだ部分も実に淡々と、そして自然に明らかになっていく。唯一、カタルシスを得られるシーンはラスト近くのTVの生放送シーンくらいか。これまでと同じく劇的なことなど全く起きないのが逆に、被害者の家族の悲しみ、加害者の家族の苦しみ、そして自らの犯罪に酔っていた犯人の滑稽さをより強く描き出していく。
配された伏線はこの後の警察の捜査で1つづつ明らかになっていくのだろうけど、それはきっと物語の求めていたこととは別の話なのだろう。

ミステリ的な謎解きとか、真犯人へと迫る警察ドラマとかを排除して、「事件」に関わる人間の心に焦点を置いて描いたところが、実に宮部みゆきさんらしいところだったかなぁ。
ひさびさに読み応えのある小説だった。

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2005-12-18

滝本竜彦「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」

読了。溢れ出る作者の自意識の発露であり、荒唐無稽な設定もキャラクタもストーリすらも意味を持たない。勢いにまかせて書ききった、ある種清々しさはある。

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2005-12-12

花村萬月「幸荘物語」

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幸荘物語 (角川文庫)
花村 萬月
角川書店 2002-12

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読了。小説家志望の主人公(24歳童貞)が暮らす吉祥寺のボロアパートには、ギタリスト、カメラマンなど、金はないけど夢だけはある青年たちが住んでいる。鬱屈した青春の中、主人公が友人に誘われた風俗で童貞を失って、徐々に変化していくさまを描いている。
昭和テイストというか古い感じもするけど、一寸変わった熱を持った青春物語。暴力的な描写は少なく、割と普遍的な青春を描いていると思うけど、中盤で登場するソープ嬢のお姉さんとか2丁目のゲイバーの美少年とかの会話に現れる猥雑さが萬月さん独特の青春かな。このあたりが1番面白くて、終盤に向かって行くに従って主人公の屈折とか汗臭さが薄らいでいくのは残念。

作中で主人公の変化の契機にされる童貞ってヤツも、最近じゃD.T.なんて言い換えられて、童貞SNSまで出来てるみたいだ。ゲイ、レズ、オタクとかのカテゴリのSNSは知ってたけど、ついに童貞まで...。SNS乱立気味だなぁ。

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